GID Guideline 第2版 (2002年7月)



性同一性障害に関する
診断と治療のガイドライン
(第2版)

 

日本精神神経学会「性同一性障害に関する第2次特別委員会」委員
日本精神神経学会「性同一性障害に関する第2次特別委員会」委員長中島豊爾
平成14年7月20日

 
 日本精神神経学会「性同一性障害に関する第2次特別委員会」は、これまで通算9回にわたり、性同一性障害に関する診断と治療のガイドラインの改訂作業を行って参りましたが、その結果がまとまりましたので、ここに性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン(第2版)(以下、改訂第2版ガイドライン)を報告申し上げます。

 

Ⅰ はじめに
 
 日本精神神経学会「性同一性障害に関する特別委員会」は、平成9年5月28日付の「性同一性障害に関する答申と提言」のなかで、性同一性障害の診断と治療のガイドライン(以下、初版ガイドライン)を公表した。これによってブルーボーイ事件以降長く続いた「暗黒の時代」に終止符が打たれ、性同一性障害は医療の対象と位置づけられた。実際に、この初版ガイドラインに沿って平成10年10月16日埼玉医科大学において、わが国で初めて公に性同一性障害の治療として性別適合手術(sex reassignment surgery,以下、SRS)が施行された。次第に性同一性障害は社会的に認知され、SRSを含む性同一性障害に対する治療は正当な医療行為として社会に肯定的に受け入れられ、その地歩を固めつつあるかにみえる。
 
 しかしながら、4年余にわたる性同一性障害の臨床経験を積むなかで、初版ガイドラインに沿わないケースを少なからず経験するようになった。そこで当委員会では、この問題を解決すべく各委員の経験した症例について概括的な分析を加え、その原因と背景、状況を明らかにして対応について検討した。
 このような議論の結果、ようやく根付きはじめた性同一性障害の治療を、後退させることなくいっそう発展させ、社会から理解と支持をえるために、ガイドラインを改訂することが急務であると認識するに至った。そのため性同一性障害の診断と治療に関するガイドラインをより分かりやすく、現実に則した実効性のあるものとすることを目標に、改訂作業を行ってきた。折しもHBIGDA(The Harry Benjamin International Gender Dysphoria Association)のStandardsof Careも第6版へと改訂され、参考にした。
 改訂第2版ガイドラインは以上述べた経緯により策定されたが、以下にその内容を示す。

 

Ⅱ ガイドライン改訂の経緯
 
1 委員会の基本的姿勢
 
 当委員会で概括的検討を加える過程で、繰り返しガイドラインの理念ないしは基本姿勢について議論された。それらを集約して当委員会の基本姿勢を確認するために以下に提示する。
 性同一性障害をもつ当事者は、性別違和感のほかに社会生活のさまざまな側面に問題を抱えている。そのために生ずる苦痛、苦悩は計り知れないほど大きく、社会適応も損なわれ、当事者自身が満足のゆく生活ないしは人生を送ることに著しい困難を生じている。今日、性同一性障害に提供でさる治療は、必ずしも性同一性障害の根本的な解決を約束するものではないが、少なくとも、苦痛や苦悩を軽減して自身が求める意義ある生活や人生を実現することを援助することができる。それによって当事者が人としての尊厳を回復することに寄与することができる。
 
2 治療に対する基本的認識
 
 性同一性障害に関する第2次特別委員会の各委員が経験した性同一性障害の症例数は、これまで延べ約1000例(重複あり)に達している。その治療経験を検討した結果、以下の事実が確認された。
 

歴史的ないし文献的な検討あるいは自らの治療経験から、ジェンダー・アイデンティティを身体的性別に一致させることを可能にする治療は知られていない。
自らのジェンダー・アイデンティティの変更を希望するケースはほとんどない。
本人が希望しないジェンダー・アイデンティティの変更を行う治療は、非倫理的かつ非現実的であり、そもそも、そのような治療は治療として成立しない。
性同一性障害の治療は、精神的サポートをしながら、治療の諸条件の達成状況に応じて、ホルモン療法や手術療法などによって身体的特徴(本人が希望する範囲内において)をジェンダー・アイデンティティに合致させる方法を見いだしていくことである。この方法が、現時点における現実的な最良の治療であると考えられる。

 
 以上の認識に立って初版ガイドラインを発展させた改訂第2版ガイドラインでは、本人が最も(より)
適応しやすい身体的、心理的、社会的諸条件を整えることに治療目標を設定した。それを実現するための具体的な方策を改訂第2版ガイドラインに提示している。
 
3 性同一性障害の多様性
 
 性同一性障害の当事者における性のありかたは、極めて多様である。このことは、社会において価値観が多様化するなかで性のありかた自体も変化し、従来築かれた男女の性意識が変遷し、求める性役割も大きく変貌しつつあるという状況とも関係すると考えられる。このような実態を踏まえると、性同一性障害の治療は、単に男か女かという二分法的な性のとらえかたに依拠するのではなく、本人のなかで培われ、一貫性をもって持続するようになったジェンダー・アイデンティティを尊重して、本人が最も良く適応できる諸条件を個々のケースにそって探り、その達成を支援することであるといえる。
 
 性同一性障害の多様性について、初版ガイドラインにそった治療を求めるもの以外に、次のような例も認められる。身体的性別の特徴を希望する性別のものに変えたいと願いながらも、ホルモン療法を受けずに性器に関する手術のみを希望するケースや、あるいは乳房切除術ないしはホルモン療法だけを望み、性器に関する手術を希望しないケースもみられる。また強い性別違和に悩み種々の矛盾を感じながらも、家庭生活や社会生活を優先させるために精神的サポートのみを希望するケースなどがある。
 
 このように当事者が求める治療は多様なものであるが、治療の必要性が性同一性障害に由来しており、治療によって社会に適応しやすくなるという恩恵がもたらされるのであれば、医療の立場から貢献するに十分な理由があると考えられる。性同一性障害にみられる多様性に対して画一的な治療を遵守させるのではなく、ジェンダー・アイデンティティのありかたと当事者自身の求める社会適応のありかたを尊重すべきである。したがって合理的で正当な範囲において、自己の責任において治療を選択し決定してゆくことが最善であると考えられる。今回の改訂では、後述の通り、性同一性障害の多様性に対応した治療を提供する際の原則を提示している。
 
4 ガイドラインに一致しない治療例への対応
 
 初版ガイドラインに沿わない治療を受けている当事者は少なくない。この問題に対応するために治療者たちは苦慮してきたが、その解決は緊急かつ重要な課題であると考えられる。性同一性障害に関する当委員会での概括的な検討によって、様々な状況において異なった理由から、ガイドラインに一致しない治療を選択していることが明らかになった。
 

初診時、既にホルモン剤の使用を開始しているケースや、既に乳房切除術または精巣摘出術を受けているケース、さらにガイドラインが策定される以前から、前述のような手段により自己判断で治療を受けているケースがあること。
第1段階の治療途中に、自己判断でホルモン投与を開始したケース、第1段階または第2段階の治療途中で、自己判断で乳房切除術を受けたケースがあること。
最初ホルモン療法や乳房切除で満足できると考え、初版ガイドラインとは無関係に治療を受けてきた当事者のなかにも、途中からガイドラインに沿って
SRSを受けたいと希望するケースがあること。

 
これらのケースの経緯を詳細に検討すると、背景に次のような問題が認められた。
 

ガイドラインに関する問題
・その存在が周知されていないこと。
・その意義が必ずしも理解されていないこと。
・その内容に非現実的・不合理な点があると受け取られていること。
・策定以前に治療を受けた当事者への移行処置が明確でないこと。
国内医療体制の整備に関する問題
・ガイドラインに沿った診断・治療を提供する医療機関の数が限られていること。
・医療機関の対応が遅すぎること。
安易に治療を受ける手段が存在すること。
・ガイドラインに沿わない治療を提供する医療機関があること。
・容易にホルモン剤の入手できること。

 
 それまでガイドラインに一致しない治療を受けてきた者が、ガイドラインに沿った治療を求めるのであれば、ガイドラインを遵守しなかったことを理由に、正当な医療を受ける対象から排除されることがあってはならない。排除してしまえば、初版ガイドラインが公表されて性同一性障害の治療が公に正当な医療行為として定着しつつあるにもかかわらず、再びこのようなケースを医療の闇に押しやってしまう可能性がある。また、その場合に、正当で質の高い医療が提供されるかどうかは、はなはだ疑問があり、当事者たちを危険に曝す可能性がある。そして、結局は社会からの理解と支持を失い性同一性障害の治療は大きく後退することになりかねない。
 
 このような当事者に村しては、性同一性障害の診断が確実か、受けてきた治療の効果と副作用はどのようなものか、治療としてどのような段階にあるのか、また求める治療を受けるために必要な諸条件を満たしているか、などについて(再)検討を加え、治療を構築することが妥当であると考えられる。その具体的な方策については後述の通りである。

 

Ⅲ 診断と治療のガイドライン
 
1 ガイドラインの位置づけ
 
 人としての尊厳を守り、疾患や障害のために著しくQOLが損なわれている場合には、その改善のために力を注ごうとすることは、医学および医療の基本的役割である。それは、性同一性障害においても例外ではない。性同一性障害においては、その多様性がゆえに、様々な問題を生じているが、ガイドラインはその多様性を覆うものでなければ、その役割を果たせない。さらに、母体保護法第28条および「ブルーボーイ事件」東京地裁判決との整合性も維持しなければならない。
 
 このような観点と前述の経緯によって、改定第2版ガイドラインは策定されたが、云うまでもなくガイドラインは、一義的には医療関係者に対する規定であって、当事者の治療意思を縛るものではない。しかしながら性同一性障害における医療は、当事者がガイドラインの目的をよく理解し、ガイドラインに沿った治療者の指示を守ることを前提としている。そうでなければ、治療者が責任を担うことのできる信頼ある治療は成立しないからである。むしろ、当事者がガイドラインに沿った治療を行うことの意義を充分に理解できるように、治療者は最善の説明努力を払うべきであろう。また同時に、当事者の行動によって治療契約に破綻を来たす場合には、治療者は責任ある治療を提供することができなくなり、治療そのものを中止せざるを得ない場合もあることを、治療開始に際して明確に伝えるべきであろう。
 
 要するに、ガイドラインは治療者にも当事者にも尊重されることが要請されるのであるが、実際のガイドラインの運用にあたって、医療者はガイドラインをあくまでも基本的な考え方を示す指針であると認識して、個々のケースが治療目標を達成できるように現実的に検討して柔軟にガイドラインを適用することが最も重要である。
 
2 医療チーム
 
 性同一性障害をもつ当事者に対する種々の検討は、専門を異にするメンバーが医療チームを作って行う。
 

医療チームの構成については、性同一性障害の診断と治療に理解と関心があり、十分な経験をもった精神科医、形成外科医、泌尿器科医、産婦人科医などの他に、必要に応じて内分泌専門医、小児科医などによって構成されることが望ましい。
性同一性障害は社会生活のあらゆる側面に深く関わる問題であることから、医療チームには、上記の各科医師の他に、心理関係の専門家、ソーシャルワーカーなどの参加が望ましい。必要なときは法律関係者の参加も検討すべきである。
医療チームのメンバーは個々のケースにつき、医学的判断とともに当事者が抱える問題を把握し、きめ細かに援助し対応することが求められる。
医療チームは複数の医療機関で構成することもできる(たとえば開業医が医療チームを結成することもできる)。ただし、その場合には、中核となる施設あるいは第3者機関などに倫理委員会あるいはそれに代わる組織を設ける(あるいは依頼する)ことが必要である。

 
3 診断のガイドライン
 
 次に示す手順に従って、性同一性障害についての診断を決定する。性同一性障害に十分な理解をもつ精神科医が診断にあたることが望ましい。2人の精神科医が一致して性同一性障害と診断することで診断は確定する。2人の精神科医の意見が一致しない場合は、さらに経験豊富な精神科医の診察結果を受けて改めて検討する。
 

(1) ジェンダー・アイデンティティの決定
 

1) 詳細な養育歴・生活史・性行動歴について聴取する。
 日常生活の状況、たとえば、服装・言動・人間関係・職業歴などを詳細に聴取し、現在のジェンダー・アイデンティティのあり方、性役割の状況などを明らかにする。また必要に応じて、当事者の同意を得たうえで家族あるいは当事者と親しい関係にある人たちから、症状の経過、生活態度、人格に関わる情報、家族関係ならびにその環境などに関する情報を聴取する。そのうえで、ジェンダー・アイデンティティについて総合的多面的に検討を加える。ただし、これらの人たちと当事者との関係に重大な支障を及ぼさないよう、細心の注意が必要である。
 
2) 性別違和の実態を明らかにする。
 DSM-ⅣやICD-10を参考としながら、以下のことを聴取する。
 

自らの性別に村する不快感・嫌悪感
・自分の第1次ならびに第2次性徴から解放されたいと考える。
・自分が間違った性別に生まれたと確信している。
・乳房やペニス・精巣などを傷つけたり傷つけようとしたりする。
・FTMでは声をつぶそうと声帯を傷つけたり傷つけようとしたりする。
反対の性別に対する強く持続的な同一感
・反対の性別になりたいと強く望み、反対の性別として通用する服装や言動をする。
・ホルモン療法や手術療法によって、でき得る限り反対の性別の身体的特徴を得たいとの願望をもっている。
反対の性役割
・日常生活のなかでも反対の性別として行動する、あるいは行動しようとする。
・しぐさや身のこなし・言葉づかいなどで反対の性役割を演ずる、あるいは演じることを望んでいる。
 
3) 診察の期間については特に定めないが、診断に必要な詳細な情報が得られるまで行う。

 

(2) 身体的性別の判定
 

泌尿器科医または婦人科医により実施された、染色体の検査、ホルモン検査、内性器ならびに外性器の診察ならびに検査、その他必要に応じて生殖腺検査などの結果を、精神科医は確認する(可能であれば文書として入手する)。本人の同意があれば、精神科医が染色体検査等の諸検査をすることができる。
上記診察と検査結果に基づき半陰陽、間性、性染色体異常など、身体的性別に関連する異常の有無を確認する。
 
注:上記については身体的性別に関する異常の有無が総合的にみて判定できれば良い。上記に挙げた検査等の結果が全てそろわなければならないというものではない。

 

(3) 除外診断
 

精神分裂病などの精神障害によって、本来のジェンダー・アイデンティティを否認したり、性別適合手術(sex reassignment surgery,SRS)を求めたりするものではないこと。
文化的社会的理由による性役割の忌避や、もっぱら職業的利得を得るために反対の性別を求めるものではないこと。なお、このことは特定の職業を排除する意図をもつものではない。

 

(4) 診断の確定
 

以上の点を総合して、身体的性別とジェンダー・アイデンティティが一致しないことが明らかであれば、これを性同一性障害と診断する。
 
注:なお、ここでは慣例に従って身体的性別を基準とし、身体的性別が男性である場合をMTF(Male to Female:男性から女性へ)、身体的性別が女性である場合をFTM(Female to Male:女性から男性へ)と表記する。
 
半陰陽、間性、性染色体異常などが認められるケースであっても、身体的性別とジェンダー・アイデンティティが一致していない場合、これらを広く性同一性障害の一部として認める。
 
注:性同一性障害の診断に関する国際的診断基準、たとえばDSM-Ⅳでは、半陰陽状態で性別に関する不快感を伴っているものを特定不能の性同一性障害に分類している。本人が性同一性障害に準じた治療を希望する場合には、治療から排除するものではない。
 
性同一性障害に十分な理解をもつ精神科医が診断にあたることが望ましい。2人の精神科医が一致して性同一性障害と診断することで診断は確定する。2人の精神科医の意見が一致しない場合は、さらに経験豊富な精神科医の診察結果を受けて改めて検討する。

 

注:なお、2人の精神科医の一致した診断を求めている理由は、性同一性障害の治療としてホルモン療法や手術療法など不可逆的治療を想定しているので診断が確実であることが要求されるからである。したがって、改訂第2版ガイドラインでは、不可逆的治療を前提とするのでなければ、必ずしも2人の精神科医の一致した診断が必要不可欠というものでもない。この点についても個々のケースに応じて判断すべきである。

 
4 治療のガイドライン
 
 治療は原則的に第1段階(精神的サポート)、第2段階(ホルモン療法とFTMにおける乳房切除術)、第3段階(性器に関する手術)という手順を踏んで進められる。しかし、治療は画一的にこの治療の全てを受けなければならないという訳ではない。治療について十分に理解したうえで本人の意思と責任において、途中の段階にとどまったり、例外的にある治療を選択しないというができる。ただし、診断の手続きと第1投階の治療を省略することはできない。
 
 治療を次の段階に進めることを希望する場合には、以下の手順に従って行う。
 

(1) 第1段階の治療(精神的サポートと新しい生活スタイルの検討)
 

1) 第1段階の治療に携わる者(精神科領域の治療者)
 
 第1段階の治療に携わる者は、性同一性障害の診断、治療に理解と関心を有する精神科医、心理関係の専門家が中心となる。精神科領域の治療は第2段階・第3段階においても行われる。
 
注:ここでいう心理関係の専門家は、大学または大学院において心理関連領域を専攻した者、あるいは医療チームにおいて性同一性障害の治療に関して同等以上の経験と力量を持つと認められた者とする。
 
2) 第1段階の治療
 
 精神科医による性同一性障害の診断が確定しているか、確定する前であっても、ジェンダー・アイデンティティに関連する問題があると考えられ、本人自らが治療を希望する者に対しては、以下の治療を開始することができる。
 

これまでの生活史のなかで、性同一性障害のために受けてきた精神的、社会的、身体的苦痛について、治療者は十分な時間をかけて注意を傾けて聴き、受容的・支持的、かつ共感的に理解しようと努める。
その時点で、いずれの性別でどのような生活を送るのが自分にとってふさわしいのかを検討させる。また既にどれだけ実現できているか、現状でさらに実現できることがあるかなどを詳細に検討させ、実現に向けての準備や環境作りを行わせる。その間、必要に応じて面接を行い、希望する生活を揺るぎなく継続できるか、生活場面でどのような困難があるかを明らかにする。
ホルモン療法を希望する当事者に対しては、ホルモン療法に移行した際に起こりうる種々の変化を予測し、どのように対応するかを検討させる。また、その生活を現実にできる範囲で実際に行わせてみる。このような生活は必ずしも生活の全般にわたって行う必要はなく、パートタイムのもの(たとえば、職場以外や休日の外出時など限定して行うもの)であってもよい。
家族や職場にカムアウトを行った場合、どのような状況が生じるのかなどを具体的に検討させ、その範囲や方法、タイミング等についての示唆を与える。必要に応じて、家族面接で理解と協力を求め、職場や産業医等との連携をとるなどの方法を検討すべきであろう。また学生等の場合は、健康管理センターやカウンセラー、学生部、教務等との連携をとる方がよいかどうかも含め、本人とともに検討する。
うつ病などの精神科的合併症がある場合には、合併症の治療を優先し、適応力を生活上支障のないレベルに回復させる。すなわち、性同一性障害に対する積極的治療に耐えられるレベルに到達するまで、性同一性障害の治療を一時留保することも検討すべきである。
上記①~⑤の条件を満たすことを確認できるまでの期間行う。

 

3) 第1段階の治療の評価と第2段階の治療への準備条件
 
 第1段階の治療(精神的サポート)の効果判定は、治療の中心となつた精神科医もしくは心理関係の専門家が担当する。医療チームにおいて、治療期間中に当事者との面接によって明らかになった前述の〔4-(1)-2)第1段階の治療〕にある①~⑤の条件がどの程度達成されたかによって評価する。
 上記に定めるように第1段階の治療を継続した後、本人がホルモン療法や乳房切除術を希望する場合は、次の手続にしたがって、第2段階への準備条件が満たされるかどうかを判断する。
 

身体的性別の診断が確定していること(前述)
 
 第2段階への移行に関する検討が行われるまでに、身体的性別に関する診察や諸検査を実施し、その結果を書面(コピーでも可)で医療チームに提出する。
 
精神科医2名によって性同一性障害の診断が確定していること
 
 1人目の精神科医は、性同一性障害の診断に関する意見書を作成して、2人目の精神科医に紹介する。1人目の精神科医が第1段階の治療を同時に行った場合、それが終了した時点で2人目の精神科医に紹介する。2人目の精神科医は診断に関する意見書を、1人目の精神科医の診断に関する意見書(コピーでも可)を添えて医療チームに送付する。2人目の精神科医は、1人目の精神科医の診断について異存がない場合は、その旨を示す書面でよい。
 
注:ここでいう1人目の精神科医とは、意見書作成に関する1人目であって、必ずしも診療に関する順番を示すものではない。診断に関する詳細な意見書作成を担当する精神科医を1人目の精神科医とする。以下意見書担当者についても同様である。
 
第2段階への移行に関する2通の意見書が提出されること
 
 第1段階の精神科領域の治療を担当した治療者を含む2名の意見書担当者は、以下に示す第2段階の治療へ移行するための条件を検討して、その条件を満たしていると判断した場合は、意見書を医療チームに提出する。この際、2人目の意見書担当者は1人目の意見と同様の意見であれば、その旨を示す意見書でよい。2人の意見書担当者の意見が一致しないときはより経験豊富な3人目の精神科医の意見を求める。医療チームは、これらの意見書をもとに総合的な検討を行い、第2段階への移行について最終的に判断する。
 なお、診断と第1段階の治療を同時に行った場合、診断と治療に関する意見書を1通にまとめることも可能である。
 
4) 第2段階の治療への意見書作成に携わる者
 
 第1段階の治療に携わる者として規定した精神科領域の治療者(精神科医あるいは心理関係の専門家)が意見書を作成する。そのうち少なくとも1名は、精神科医(原則として診断に関わった精神科医)でなければならない。1名は心理関係の専門家が代行することもできる。
 また、2人の意見書担当者のうち1人は医療チームに属していることが望ましい。2人の意見書担当者のいずれも医療チームに属していない場合は、医療チームに属する精神科医が2通の意見書の内容を検討し、必要な場合には改めて診察を行い、診断ならびに第2段階への移行に関しての意見書の内容を確認し、医療チームにおいて検討する。
 
5) 第2段階の治療へ移行するための条件
 
 次の条件を満たすとき、第2段階の治療へと移行することができる。
 

第1段階の治療を経た後、身体的性別とジェンダー・アイデンティティとの間に不一致が持続し、そのために苦悩が続いていること。
 
新しい生活スタイルについての必要充分な現実検討ができていること。すなわち、身体的性別とジェンダー・アイデンティティとの間に不一致が存在しながらも、本人なりに今後の新しい生活スタイルを試みており、それについて適合感があり持続して安定していること。
 
注:新しい生活スタイルを試みるなかで、周囲の好奇の目に曝されることへの耐性もある程度身に付けていることが必要である。さらに職業に関しては、現在の仕事が継続できる条件を整えているか、一旦職を辞して新しい職に就く場合には、具体的目途が立って見通しがついていること。学生の場合には学校側と授業や実習に関しての調整がなされているか、特に調整を要さない科目のみの履修で済むように科目選択が可能であることなども考慮すべき点である。
 
ホルモン療法ないし乳房切除術を希望する場合、それによる身体的変化や副作用について、少なくとも重要なことに関する知識があること。
 
身体的変化にともなう心理的、家庭的、社会的困難に対応できるだけの準備が整っていること。
 
注:たとえば必要な範囲でカミングアウトしサポートシステムを獲得していることが望ましい。またカミングアウトしないで適応をはかろうとする場合、自らを支え種々の不安や苦痛に耐えて対処するだけの能力を持っていることが必要となる。
 
予期しない事態に対しても現実的に対処できるだけの現実検討力を持ち合わせているか、精神科医や心理関係の専門家等に相談して解決を見出すなどの治療関係が得られていること。
 
注:種々の葛藤や不安に対する耐性が獲得されていて、行動化(自傷行為、薬物依存、や自殺企図など)や操作(「死ぬ」などの脅しによって周囲を思い通りに動かそうとするなど)をしないことも必要である。
 
(2) 第2段階の治療(ホルモン療法及び乳房切除と新しい生活スタイルの確立) 
 
 第2投階の治療は、精神的サポートの継続に加えて、MTFの場合はホルモン療法、FTMの場合はホルモン療法と乳房切除術のいずれか一方または両方を選択できる。また例外的に、精神科領域の治療のみを選択することもできる。
 

1) ホルモン療法
 

(i) ホルモン療法に携わる者
 
 ホルモン療法は、医療チームの一員であるか医療チームから依頼を受けた医師であり、かつ内分泌学、泌尿器科学、産婦人科学を専門とする医師によって行われるベきである。ただし、地域性などの条件を考慮して、近医や非専門医がホルモン投与する場合でも、専門医の診察を定期的に受けられるように配慮するべきである。
 
(ⅱ) 第2段階のホルモン療法開始の条件
 
 ホルモン療法を始めるにあたって、次の条件を満たしていることが必要である。
 

第2段階に移行するための条件〔上記4-(1)-5)第2段階の治療へ移行するための条件〕を満たしていること。
 
十分な問診、身体的診察と必要な検査を行い、ホルモン療法を行うことで健康に重篤な悪影響を及ぼす疾患などが否定されていること。
 
注: たとえば血栓症や重症肝機能障害が否定されていること。
 
ホルモン療法の方法、効果と限界、起こり得る副作用について改めて十分な説明を行い、理解していることを確認したうえで文書で同意を得ること。
 
家族、パートナーにも必要に応じて、ホルモン療法の効果と限界、起こりうる副作用について十分な説明を行うこと。
 
年齢は18歳以上であること。ただし18歳以上であっても未成年者については親権者など法定代理人の同意を得ること(親権者が2名の場合は2名の同意)。
 
注:初版ガイドラインでは20歳以上としていた開始年齢を18歳以上と改訂した。その根拠としては、高校卒業、進学・就職など日本の社会的事情を考慮すると18歳でホルモン療法を開始することが、社会的生活をより円滑にすると考えられること、また18歳に達すると生物学的にも安定してジェンダーの揺らぎが起きにくくなること、社会的にも婚姻が許される年齢であること、さらに、2001年の日本性科学会での阿部の発表によれば、性同一性障害399例の治療経験から治療開始後に異性化願望を諦念したケースは一例も認められなかったことなどが挙げられる。

 

(ⅲ) ホルモン療法について
 

MTFの場合、エストロゲン製剤やゲスタゲン製剤の投与を行う一方、FTMでは、アンドロゲン製剤の投与をおこなう。投与量は血中ホルモンなどにより、その効果を評価しながら適量を決定する。過量投与は、投与量に比例した効果が上がらないばかりか、副作用の危険を増大させるだけである。
ホルモン療法により期待される効果は、性ホルモンとしての直接的な効果と視床下部下垂体系抑制による性腺刺激ホルモン分泌の低下を介した効果がある。全身的な効果は以下の通りである。MTFに村するエストロゲン投与では、乳腺組織の増大、脂肪の沈着、体毛の変化、不可逆的な精巣の萎縮と造精機能喪失などが起こりうる。一方、FTMに村するアンドロゲン投与では、月経の停止、体重増加、脂肪の減少、にきび、声の変化、クリトリスの肥大、体毛の増加と禿頭などが起こりうる。この中には精巣萎縮や造精機能喪失に代表されるような不可逆的な変化もあり得る。
ホルモン療法に伴って、血栓症など致死的な副作用が発生する可能性がある。また、狭心症など心血管イベント、肝機能障害、胆石、肝腫瘍、下垂体腫瘍などの可能性がある。したがってホルモン療法の際には常に副作用に注意し、開始前のみでなく、開始後も定期的な検査をおこなう。特にエストロゲン製剤の投与に際しては、肝機能などの一般臨床検査に加えて、血液凝固能の亢進、血中プロラクチンの上昇などに注意する必要がある。
ホルモン療法は、原則的には他の内科疾患や心血管系合併症などをともなわない場合に行うべきである。特に糖尿病、高血圧、血液凝固異常、内分泌疾患、悪性腫瘍などはホルモン療法のリスクを増大する可能性がある。また、肥満、喫煙も同様である。しかし、ホルモン療法にともなう利点も多々あることから、その可否については、個々の例において、利益と不利益を熟慮したうえで総合的な評価をおこない、最終的に判断するべきである。
ホルモン療法に用いる薬剤の投与量は、第3段階の治療における精巣摘出術または卵巣摘出術の後は減量が可能である。しかし、骨粗鬆症などの可能性を考慮し、生涯にわたって継続するべきである。

 

2) FTMに対する乳房切除術
 
 FTMの場合、第一段階の治療を経て第2段階の治療、ホルモン療法に移行する際、本人が希望すれば、乳房切除術を選択することができる。両者を同時にあるいは時期を違えて行うこともできる。あるいはホルモン療法を行わず、乳房切除術のみを行うこともできる。
 

(ⅰ) 乳房切除術に携わる者
 

乳房切除術に携わる者は、医療チームの一員であるか、医療チームから依頼された形成外科医あるいは美容外科医であること。
性同一性障害および乳房切除術に関して、十分な知識と技術を持っていること。

 

(ⅱ) 乳房切除術を施行するための条件
 
 乳房切除術を施行するにあたって、次の条件を満たしていることが必要である。
 

第2段階に移行するための条件〔上記4-(1)-5)第2段階の治療へ移行するための条件〕を満たしていること。
 
十分な問診、身体的診察と必要な検査を行い、乳房切除術を行うことによって健康に重篤な悪影響を及ぼすような疾患が否定されていること。
 
注:たとえば麻酔薬に対するアレルギーや重度の肝障害等。
 
乳房切除術の具体的術式や予想される結果、手術上のリスクについて改めて十分な説明を行い、文書で同意を得ていること。
 
家族、パートナーにも必要に応じ、乳房切除術の具体的術式、予想される結果、手術上のリスクについて十分な説明を行うこと。
 
年齢は18歳以上であること。18歳以上の未成年については親権者など法定代理人の同意を得ていること(親権者が2名の場合は2名の同意)。
 
既に第1段階の治療を終了し、医療チームの検討を経てホルモン療法に移行している者が乳房切除術を希望する場合には、改めて乳房切除術に関する意見書を2人の意見書担当者〔上記4-(1)-4)第2段階の治療への意見書作成に携わる者〕から得て、医療チームにおいて検討し、手術適応であることを確認していること。
 
3) 第2段階の精神科領域の治療(新しい生活スタイルの確立)
 
 第1段階の治療に携わった精神科医あるいは心理関係の専門家は、第2段階の治療においても継続的に面接を行い、精神的サポートと新しい生活スタイルの確立を援助する。
 

第1段階の治療において不十分であった点をさらに検討し、ホルモン療法や乳房切除術の結果、希望する新しい生活スタイルのどのような点が達成され、どのような問題が残されているかを明らかにする。ホルモン療法も乳房切除術も行わない者についても同様の検討を加える。
新しい生活スタイルを確立するうえで残されている問題について、どのような解決方法があるかを詳細に検討し、よりよい適応の仕方を探る。第2段階の治療に移行するための条件として定めた事項〔上記4-(1)-5)第2段階の治療へ移行するための条件〕が揺らぎなく継続し、より安定したものとなっていることを確かめる。
第2段階へ移行するにあたって、職を辞したり、休学あるいは退学したりした場合には、新たな状況のもとで社会適応できるように援助する(種々の助言・診断書・意見書作成等により状況改善を図るなど)。
それでもジェンダー・アイデンティティと身体的性別の不一致による苦悩が強い場合には、性器に関わる手術を希望するかどうかを確かめる。希望する場合にはその適応であるかどうかを検討する。

 

4) 第2段階の治療の評価と第3段階の治療への準備条件
 
 第2段階の治療を継続して、身体的性別に関する不快感や嫌悪感がある程度軽減されても、性器に関する手術を強く希望する場合は、次の手続にしたがって医療チームは総合的な検討を行い、第3段階の治療への移行が適切であるかどうかを判断する。
 なお、第3段階への移行を判断するための観察期間を厳格に定めることは、経過に個人差が大きいため適当ではない。個々の治療者あるいは医療チームが移行に関する条件を満たしていると評価できるまでの期間、覿察を行うことが必要である。特に例外的にホルモン療法を受けていないMTF、ホルモン療法も乳房切除術も受けていないFTMについては、慎重に検討すべきである。
 

第2段階の治療効果の判定
 第2段階の精神科領域の治療者は、第2段階の治療に携わったホルモン療法担当医や乳房切除担当医から治療内容ならびにその経過について文書で報告を受ける。第2段階の治療の効果判定は、身体的効果判定とともに身体的変化への精神的適応が良好であることを確認する。
第3段階の治療へ移行に関する2つの意見書
 第2段階の精神科領域の治療を担当した治療者を含む2名の意見書担当者が、以下に示す基準をもとに第2段階の治療の効果と第3段階へ移行する条件が達成されているかどうかを検討して、達成されていると判断される場合、第3段階への移行に関する意見書を医療チームに対して提出する。この際、2人目の意見書担当者は1人目の意見と同様の意見であれば、その旨を示す内容でよい。医療チームは、2通の意見書をもとに総合的な検討を行い、第3段楷への移行が適切かどうかを最終的に判断する。

 

5) 第3段階の治療への意見書作成に携わる者
 
 第2段階の治療に携わった精神科領域の治療者(精神科医あるいは心理関係の専門家)が行う。第3段階への移行に関する1人目の窓見蓄は、原則として第2段階の精神科領域の治療に関わった治療者(精神科医あるいは心理関係の専門家)が担当する。意見書を提出する2名の担当者のうち少なくとも1名は、精神科医でなければならない。
 また、2人の意見書担・当者のうち1人は医療チームに属していることが望ましい。2人の意見書担当者のいずれも医療チームに属していない場合は、医療チームに属する精神科医が2通の意見書の内容を検討し、必要な場合には改めて診察を行い、診断ならびに第3段階への移行に関する意見書の内容を確認し医療チームで検討する。
 
6) 第3段階の治療へ移行するための条件
 
 次の条件を満たすとき、第3段階の治療へと移行することができる。
 

ホルモン療法、または乳房切除(FTMの場合)によってある程度精神的に安定していても、依然として身体的性別に関する強い不快感や嫌悪感が持続し、社会生活上も不都合を感じており、第3段階の治療(性器に関わる手術)を強く望んでいること。
 
少なくとも職場や学校以外のプライベートな場所では、希望する性別での生活を当事者が望むスタイルでほぼ完全に送られており、後戻りしない状態が少なくとも1年以上続いていること(観察期間を一致して1年以上とする必要はないが、そのことを意見書担当者が十分確信できること)。
 
手術に必要な期間、仕事や学校を休むことができるか、退職を考える場合には次の職に関して、具体的な見通しが立っていること。手術後も生活に必要な経済的安定が確保される見通しが立っていること。
 
家族やパートナー等のサポートシステムが安定的に得られていること。それが得られない場合、あるいはカミングアウトしていない場合には、精神的にも経済的にも自立できていること。
 
年齢は20歳以上であること。
 
注:MTFに村する豊胸術に関しては、特段の条件を設定せず通常の美容外科的処置と同等に位置付けることが妥当と考えられる。したがって、その選択は本人の判断に委ねられるが、ホルモン療法を開始してから2年程経過してから乳房が大きくなるという例もあり、豊胸術の施行については慎重な判断が求められる。喉仏の手術や他の美容外科的手術ないし処置(例えば脱毛など)に関しても本人の選択に任せられるが、各方面の専門家による助言を求めるなど、慎重であるべきことは同様である。

 

(3) 第3段階の治療
 
 第3段階の治療における手術療法の範囲は、基本的には内外性器の手術に関わるものである。
 

MTFの場合: 精巣摘出術、陰茎切除術と造膣術および外陰部形成術
FTMの場合: 第1段階の手術として、卵巣摘出術、子宮摘出術、尿道延長術、膣閉鎖術
第2段階の手術として、陰茎形成術

 
などが考えられる。ただし、どのような範囲の手術をどのように行うかの選択は、それぞれがもたらし得る結果と限界やリスクについて十分な情報を提供する中で、本人の意思を尊重しながら決定されるべきである。
 

1) 第3段階の治療、手術療法を行う者
 

第3段階の治療における手術療法を行う者は、医療チームに属する形成外科医・泌尿器科医・産婦人科医などが協力して行う。
第3段階の治療における手術療法に十分な技量を有する者であることはもちろんであるが、同時に性同一性障害についての知識、特にその心性に対する十分な理解を持ち合わせていることが望まれる。

 

2) 第3段階の治療、手術療法を行うための条件
 
第3段階の治療、手術療法を施行するにあたり次の条件を満たしていることが必要である。
 

本人の希望する手術が具体的に明らかにされていること。医療チームの詳細な検討で、それが本人の治療として適切であると判断されていること。
 
注:たとえば、MTFが精巣切除を行いしばらく経過を見て、ある時点で更なる手術を求めることもありえる。
 
手術の範囲、方法、予想される効果、起こりうる合併症・随伴症状などについて、十分な説明を行い、理解したことを確認の上、文書で同意を得ていること。
 
家族、パートナーにも必要に応じ、具体的術式や予想される結果、手術上のリスクについて十分な説明を行っていること。
 
倫理委員会あるいはそれに代わる組織は、医療チームから提出された診断ならびに治療経過に関する資料・同意書などの関係書類のもとに、手術が倫理的に妥当であると承認していること。
 
注1:倫理委員会は、当事者の社会生活のさまざまな領域で阻害されている状況が、性器に関わる手術によって少しでも改善につながり、当事者が満足のいく生活・人生を送ることに貢献することになるかという観点を中心に医学倫理の立場から判断する。さらに時間的な問題に配慮し、効率的に審議を行う組織を設け、申請のあった個別例については、この組織に判定を委ねるなどの工夫が望ましい。
 
注2:倫理委員会あるいはそれに代わる組織は、医療チームの第3段階の治療における手術療法の適応判断に疑義があるときには、速やかに医療チームとの直接の質疑応答(書面によるやり取りではなく直接対話による)と総合的判断に関する議論の場を持たなければならない。特に第3段階の治療における手術療法が本人のQOLの向上をもたらすかどうかの観点から議論が行われなければならない。
 
3) 第3段階の治療における精神科領域の治療
 
 それまで治療に関わってさた精神科医あるいは心理関係の専門家は、第3段階の治療における手術療法前後の状況的変化や、予測しない事態に対する解決に関し、助言し支持的に接するなど、長期にわたり必要に応じた精神的サポートを継続する。

 

Ⅳ ガイドラインの運用の奨励と対策
  (ガイドラインに一致しない治療例への対応)
 
 
 初版ガイドラインと無関係に治療を受けてきたケースや、何らかの理由からガイドラインを途中で逸脱したケースが治療を求めてきた場合、次に示す手順に従って診断を確認して治療を構築する。
 
1 性同一性障害の診断の検証と治療の評価
 

(1) 性同一性障害の診断の検証
 

1) 診断のガイドライン(Ⅲ-3)に従って、性同一性障害の診断を検証する。以下の点につき確定されていることを確認する。
 

ジェンダー・アイデンティティが決定されていること
身体的性別の判定されていること
除外診断がなされていること
上記①~③に照らして、診断が確定していること

 

2) 診断の確定に必要な諸条件が満たされていないケースについては、可能な限りすみやかに身体的診察や諸検査を行い、その結果を確認すること。診断の確定には2人の精神科医の意見書が必要である。
 
注:治療が進んでいると、身体的診察や検査が当事者に大きな苦痛を与えることがしばしば経験される。しかし、このことは正当で質の高い医療を受けるうえで必要であるため、十分に説明して静察や検査等を安けるように精神科領域の治療を行う者が指導する。
 
(2) 治療についての評価
 

1) 既に行われている治療について具体的に明らかにする。その治療に至る経緯、治療の内容、効果と副作用について検討し、治療の妥当性、正当性について評価する。
2) 当事者の身体的変化、希望する性での生活の達成度、社会生活上の問題や障害について慎重に検討し評価する。
3) 当該治療への準備条件、ならびに当該治療へ移行するための条件、開始の条件がどの程度満たされているかについて判断する。

 
2 治療投暗の判定と治療方針の決定
 

(1) 現在の状態の評価と治療段階の判定
 

1) 前項の(1)、(2)の検討から、現在当事者が置かれている状態を評価し、またこれまでに受けた治療が改訂第2版ガイドラインのどの治療段階に相当するかについて判断する。
2) 当該治療への準備条件、ならびに当該治療へ移行するための条件、開始の条件のうち、満たされていない条件については、達成可能かあるいは達成されない場合には、その理由について慎重に検討し判断する。

 

(2) 治療方針の決定
 
 現在行われている治療を継続すること、あるいは希望する新たな治療が妥当であるかどうかを判断する。
 

1) 以上の検討結果を総合して、現在受けている治療を継続できるか、また希望する治療が適応となるかどうかを判断する。
2) 現在の治療の継続が妥当な場合、達成されていない条件があれば、可能な限りすみやかに達成するようにする。
3) 新たな治療を行うには、治療のガイドラインで求められる諸条件が満たされていることが必要である。また新たな治療を開始するための条件を満たしていることを確認する。
4) 精神科領域の治療を行なうものが判断に迷うような例については、医療チームにおいて検討して治療方針を決定する。

 
3 治療の構築
 

(1) 治療継続の条件
 
 治療継続が妥当と判断される場合には、第2版ガイドラインに適合する治療を再構築して縫続する。
 

1) 上記の条件〔Ⅳ-1、2〕を満たしていると判断される場合には、精神科領域の治療者の責任においてこれを継続させることができるが、次の段階の治療に移行を検討する場合には、検討に必要な条件を整え、必要書類をそろえて(たとえば、2通目の意見書)医療チームで検討する(下記)。
2) 治療を継続できると判断された場合でも、解決すべき課題ないし問題を残している場合には、可能な限り達成に努める。
3) 達成されていない課題の解決が当該治療を行うのに不可欠であると判断された場合、その解決がなされるまではその治療を留保する。
4) 治療が妥当でない場合や副作用の評価が不適切な場合には、必要に応じて治療の改善、ないしは中止を指導する。

 

(2) 新たな治療開始の条件
 
 新たな治療を開始する場合には、原則的に改訂第2版方イドラインに沿って治療を構築する。
 

1) 新たな治療を行うには、治療のガイドラインに記述されている準備条件、移行するための条件が達成されていることを確認する。達成されない合理的な事情がある場合には、症例にそって慎重に検討する。
2) また新たな治療を開始するための条件を満たしていることを確認する。
3) 倫理委員会ないしはそれに代わる組織の承認を必要とする性器に関わる手術などの治療については、改訂第2版ガイドラインに記述に従い所定の手続きを踏むことが必要である。
4) 医療チームで検討することが必要とされる治療については、医療チームで検討する。達成されていない条件があり、その課題の解決が不可欠と判断される場合には、それが達成ないし解決されるまでのあいだ新たな治療を留保する。当然のことながら、このⅣに定められた事柄が、治療のショートカットのために利用されてはならない。そのためにもガイドラインに一致しない治療を受けてきたケースについては、その経緯について、時間をかけてより詳細な情報を集め、慎重に検討すべきである。

 

Ⅴ 初版ガイドライン提言の達成度
 
 最後に初版方イドライン策定時における達成すべき課題が提言として示されている。それらの提言が現時点でどの程度達成されたかを振り返ってみたい。
 
1 性同一性障害の理解の向上と知識の普及
 
 性同一性障害の診断と治療について、共通の議論の場がなく正しい知識の普及がなされてこなかった。平成10年に「GID(性同一性障害)研究会」が組織され、専門分野のことなる医師、心理関係者、法律関係者、さらに当事者が参加して毎年1回の学術集会が開催されている。現在までに4回学術集会が開かれ、専門的知識の向上と普及に貢献していると考えられる。精神神経学会に設置が予定されている「ガイドライン窓口」も同様の役割を演じるものと考えられる。この点についてはある程度達成されているが、依然として残された部分が大きい。
 
2 国内医療チームの組織化と診療体制の整備
 
 性同一性障害の治療の拠点となるジェンダークリニックは、現在、埼玉医科大学と岡山大学の2ヶ所だけである。性同一性障害の当事者は、全国的に散在していることから診療体制は極めて貧困で不備な状況にある。今後、他の地域にもジェンダークリニックの設置することが急務である。この点については、個人の治療者がチームを結成やジェンダークリニックヘのメンバー参加などの方策を考えて、新たなジェンダークリニックの実現に向けて更なる働きかけが必要である。
 
3 経済的援助
 
 性同一性障害に村する経済的援助について、その必要性は認識されているものの見るべき成果は上がっておらす、保険診療も受けられないでいるのが現状である。
 
4 法的諸問題への対応
 
 性別適合術を受けた場合、戸簿上の性別が変更されなければ、社会生活を送るうえで当然大きな障害になる。当事者が戸藷の性別の変更を求めて平成13年5月家庭裁判所に申請した。精神神経学会は性同一性障害に村して法曹界が十分な理解するように緊急要望書を提出している。
 
 この問題を解決するには法曹界や立法に携わる人々の理解と支援は不可欠であることから、当委員会は、平成13年9月日本弁護士連合会人権擁護委員会医療部会加藤高志、光石忠敬、平原輿弁護士らと性同一性障害について槻括的な説明と日本における治療の現状、戸籍変更の必要性などを中心に意見の交換を行った。
 達成すべき課題については、未解決に残されたものが多い。今後も各方面への働きかけが責務である。

 

Ⅵ おわりに
 
 前述の通り、初版ガイドラインが公表され、性同一性障害は公に臨床医学の対象となって既に4年余が経過した。これまでの性同一性障害についての臨床経験をもとに、初版ガイドラインに改訂を加え改訂第2版ガイドラインを提示した。このガイドラインによって、わが国における性同一性障害の治療がいっそう現実的で充実したものとなりさらに発展してゆくことを願ってやまない。
 
 明治末期から大正にかけて精神病者の私宅監置の実態について詳細な調査を行った呉秀三は、その惨状を「我邦ノ精神病者ハ実ニ此病ヲ受ケタルノ不幸ノ外ニ、此邦ニ生マレタルノ不幸ヲ重ヌルモノト云フベシ」と批判したことは余りに有名である。(著書:「精神病者私宅監置の実況、及びその統計的観察」より)
 
 今日、性同一性障害の治療に同じ悲劇が繰り返されてはならないのである。そのためには、臨床経験がさらに進展するなかで、改訂第2版ガイドラインに不備な点や不都合な部分が認識されるなら、わが国の実状にあった新しいガイドラインになるように改訂作業を継続していくべきである。

 

日本精神神経学会 「性同一性障害に関する第2次特別委員会」
委員長: 中島豊爾 岡山県立岡山病院・精神医学
副委員長: 深津 亮 埼玉医科大学・精神医学
委員: 阿部輝夫 あベメンタルクリニック・精神医学
牛島定信 慈恵会医科大学・精神医学
佐藤俊樹 岡山大学・精神医学
塚田 攻 埼玉社会保険病院・精神医学
中根允文 長崎大学・精神医学
野円文隆 東京武蔵野病院・精神医学
針間克己 東京家庭裁判所・精神医学
山内俊雄 埼玉医科大学・精神医学
コンサルタント委員: 石原 理 埼玉医科大学・産婦人科学
東 優子 ノートルダム清心女子大学・ジェンダー論
野宮亜紀 TSとTGを支える人々の会

 


このページに置いてあるガイドラインは、私みちよが個人的な研究のために纏めているものです。
私みちよは、日本精神神経学会、および性同一性障害に関する委員会と、全く関係はありません。
内容の正確性には充分に注意して作成しておりますが、あくまで参考として御覧ください。

みっちょ

SALON Doluce 代表。ハッカーでカウンセラー、占い師でカメラマン、その他あらゆる顔を持つ変な人。キッズプログラミング講師、パソコン修理、カウンセリングなど喜んで承ります。お気軽にお声掛けください!

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